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里山エッセイ



チゴイネルワイゼン

ベルトーク・ミハイ.jpg


ドイツ・ウルム市より音楽家を招いてのウルマー・カンマー・アンサンブル。第3回目となる徳島公演は、この4月15日に開かれた。
 

すっかり顔なじみとなった、ヴァイオリンのベルトークさん、ピアノのウングレアヌさん。そして日本とヨーロッパの橋わたし役を務めてくれるウルム市管弦楽団の磯村さんご夫妻。


春の日本公演は初めてとのことで、桜と新緑の両方を楽しんでくださった。


ドイツの冬は長く、5月に春が訪れたかと思うと、すぐ夏になってしまう。それだけに春への愛おしさは格別で、エルガーの「愛のあいさつ」、クライスラーの「愛のよろこび」など、春らしい恋の曲を中心に奏でてくれた。


毎回恒例のベルトークさんの「チゴイネルワイゼン」は圧巻であった。情熱的で甘美な曲が、華やかな超絶技巧で奏でられる。


そして今年の「チゴイネルワイゼン」は、特に素晴らしかった。ジプシーの旋律という意味のこの曲を、これ程哀感にあふれた演奏で聴くのは初めてだ。

じつは、ベルトークさんは、5日前に最愛の妹さんを亡くしていたのだ。演奏旅行の途中で帰ることもできず、ホテルでひとり泣き崩れていたそうだ。


大阪から演奏会にかけつけてくれた私の友人のTさんも、6日前に母親を亡くしていて、ベルトークさんの情感あふれる演奏に、思わず涙がこぼれたという。


ベルトークさんは、ルーマニアの爵位をもつ家の出身で、チャウセスクの圧政に反対して、ヴァイオリン一つもって国境を越えた。ドイツにたどりつき、まちかどでヴァイオリンを弾いて、その日の糧を得ていた。


そのあまりに美しい音色に、まちの人々が驚き、やがて地元の楽団に招かれる。


ベルトークさんは、今でも辻音楽師に出会うと、必ずコインを置いてくる。まちの人たちの温かい志を忘れることができないのである。


音楽とは、血の通った生身の人間が奏でるものであることをしみじみと思った。

建築家  野口政司     徳島新聞夕刊 4月18 日付け

コメント

悲しみ苦しみに耐えられそうにない時、聴きたい曲、口ずさみたいメロディがあるのはどうしてだろう。
私の場合、尊敬する父を亡くした時、ベートーヴェンの悲愴2楽章だった。押し殺していた悲しみはより深くなり、そして昇華されていった。その時からこの2楽章は特別の曲となった。

ベルトークさん、あなたの場合は、チゴイネルワィゼン なのですか。

 「哀愁」ということばの意味愛(こういう言い方があるとして・・・)をはじめて知ったように思います。
クラシック音楽が好き、というには程遠い知識しか持ち合わせていない私ですが、ただただ心が充たされて、ベルト-クさんの哀愁のバイオリンの音色にうっとりでした。
 コラムに書いておられるような別れがあったとは!演奏の後でバイオリンの磯村さんからお聞きしました。ベルト-クさんは明るく振舞っておられましたが、しきりに「演奏はどうだったか?」と聞いておられました。ご自分の気持ちの精一杯がどんな音色になって聞く人に流れていったのかを知りたかったのかも知れませんね。
 磯村さんとは懇親会の席でたくさんお話ができました。ふつうの女性なのに、会話ひとつにも情感があふれていて、やっぱり「音楽する人」なんだと思いました。
 人と人との出会いのすばらしさ、こんなコンサ-トをこれからも持てたらと思います。

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